沙羅

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あのひとはいった。
冬の、山里だった。
「どこにでもあるんだよ」

ほんとだった。
そして花の季節になった。
落ちることを最初から考えに入れて咲く花。
落ちてからの方が美しい花。

信号待ち

思い出したようにメールが届く。
返信するときもあればしないときもある。
返信すれば、お返事もらえると思ってなかったからうれしかった、
という返事が来る。
返そうかな、と考えつつ信号待ちをしているうちに、
忘れてしまう。

新聞でお名前見ました、
もう異動先には慣れましたか。

はい、もう慣れました。とても私に合っています。

そのひとは、いってみれば兄弟だったらよかったひと。
じっさい、もみぢには弟がいるが、弟より弟らしいひと。
そしてもう、そのひとと会うことはない。
たとえば実家で暮らすことがこの先ありえないのとそれは同じ。

そのひとがもみぢに抱いている気持ちは、
もみぢがそのひとに抱いていてもよかった気持ちで、
もみぢが持てないからそのひとに持ってもらっている。
そのあいだ二人はつながっている。
双方がこのステージを抜けるまでそれは続く。

あのひととも、同じこと。

もみぢはちょっと考え込んでしまう。
たぶん男の人とほんとの意味で対等な関係になることが私にはできない。

つきあっていたとき、そのひとのことがかわいくてしかたなかった。
一緒に暮らしたら朝から晩まで世話を焼いて楽しくてしかたないだろうと思った。
でも一生そのままでいることもできないと知っていた。
保てなくなるという予感を感じるとすべてをひっくり返して逃げ出す、
それがもみぢの癖だった。



 

青いもみぢ

もみぢは泣きはらした目で中庭を見上げた。 
12月も半ばだというのに、青いもみじが枝にくっついている。
水気を失って、ちぢれしゃくれている。
「赤くならないもみぢなんですか?」
「そうかもしれない」とあのひとが言ったのか、
「そうなんですよ」と仲居さんが答えたのか、
もはやもみぢには思い出すすべがない。

あの出来事はなんだったのか、
もみぢには未だによくわからない。
あのひととのあいだでは、そういうことが多すぎた。

「こんな話だと思ってた?」
あるときあのひとは泣いているもみぢに尋ねた。
「いいえ」と答えたけど、
「はい」でもあった。
あのひとは期待をはずすのが得意だったから。
「期待」は「甘え」と同義で、あの人の一番嫌うものの一つだった。

でも、二人のあいだに「甘え」があるということは、
「甘え」のやりもらいをしているということなのに。
どちらかだけでは発生することはない、「甘え」は。

それをこういうやり方で断ち切るのは、
いくらなんでもだろう、と思いながら、
それでも、この剥き出しの怒りを、
あのひとがぶつけることができる相手はそう何人もいないだろう、
と感じてしまう、そういう資質がもみぢにはあった。
おめでたさ、と言い換えてもいいけど。


もみぢ

「もみぢ」を書きたいんだけど、
なかなか筆が進まない。
「もみぢ」は私の分身のような人で、
かわいいひとだ。
10年前の自分に、何かを足して何かを引いたような人だ。

ただ淡々と書いているのは、
自分の中に止めるものがあるからだ。
もっと生き生きとした人だ、ほんとうは。 

いってきます

もみぢに急な出張が入った。
あの人のお供だ。

今日、さくらが言った。
「あしたあさって平和ですね」
他の同僚が言った。
「ぜんぶもみぢが引き受けてくれるからね」

「けんかしないようにします」
もみぢが言った。
それはほんき。それだけ。

「そんな夫婦みたいなこと言って」
同僚が言った。
「見て、この猫かわいい!」
来年のカレンダーを広げてさくらが大声を上げた。 

クリスマスツリーの下で

今日、二人は絶対に逢っている。
私は、いい、一から始める。

もみぢはこころに誓った。 

もういいかい

いつかほんとうにこころが落ち着いて、
晴れた空を見上げても美しいと、目にしみるとしか感じなくなって、
休みの日はその日をどうやって過ごすか困るくらいにやることがなくて、
あしたもあさっても同じように過ぎていくことしか予想できなくて。

そんな日が来たとしたら、この日々もなつかしく思えるかもしれない。

賭けてもいいがそのときあのひとはもみぢの人生の中にはいない。
いたとしてもそれは今のあのひとではない。

もみぢはあのひとを愛してはいない。
でも、あのひとにできることがたくさんある。
あのひともみぢにできることがたくさんある。
ただ、お互いが認めてしまった。
関わることが楽しくないのだと。
苦しくわずらわしいと。

あのひとはいろんなカードを持っているから、私というデッキを使わないですむ。
もみぢはそんなに豊かではない。

だから決めなくては。
苦しいのは自分だけと決めて関わり続けるか、
思い切ってここを去るか。

他にやりようがあるのだろうか。



ほんとうのとこ

あのひとへの感情は愛だといえるのか。

もみぢにはわからない。

もみぢはあのひとに対してできることがたくさんあると感じた。

以来あのひとからこころが離れなくなった。 

白檀と清浄

そこへ行こう。
もみぢは思い定める。
行こう。
あのひとがくれたものを返しに。
ほんとうに返せるか、今のもみぢには自信がないが、
そこに行けばなにかがはっきりする気がする。

あのひとももみぢより少し早くそこに行くはずだ。
2,3週間のずれはあるけど。
あのひとはそれをそのとき処分するのか、
もうとうにしたのか、わからないけど。

もみぢは知ってる。
だれも自分に飽き飽きするまでは自分を出ない。
でも飽きたとき長居する人はいない。
 

カーサ・ブランカ

また夢を見た。
今日は苦しい夢だった。
地中海みたいな穴倉のような店で、
身体を横にして蟹歩きするような通路で、
あのひとのあとを追っていた。
あのひとはトレンチを着ていた。
会えなかったけど姿を見たことで満足した。
そのあと怖いことが起きて、どっと疲れて目が覚めた。
でもあのひとを見た、確かにこの目で。
それがうれしくて、うれしいことが切なくもあった。

何かが変わりはじめている。
あきらめる、
すてる、
わすれる、
てばなす、
あきらめる、
すてる、
わすれる、
てばなす、
繰り返し繰り返し
花占いのように唱えているもみぢだった。

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