思い出したようにメールが届く。
返信するときもあればしないときもある。
返信すれば、お返事もらえると思ってなかったからうれしかった、
という返事が来る。
返そうかな、と考えつつ信号待ちをしているうちに、
忘れてしまう。
新聞でお名前見ました、
もう異動先には慣れましたか。
はい、もう慣れました。とても私に合っています。
そのひとは、いってみれば兄弟だったらよかったひと。
じっさい、もみぢには弟がいるが、弟より弟らしいひと。
そしてもう、そのひとと会うことはない。
たとえば実家で暮らすことがこの先ありえないのとそれは同じ。
そのひとがもみぢに抱いている気持ちは、
もみぢがそのひとに抱いていてもよかった気持ちで、
もみぢが持てないからそのひとに持ってもらっている。
そのあいだ二人はつながっている。
双方がこのステージを抜けるまでそれは続く。
あのひととも、同じこと。
もみぢはちょっと考え込んでしまう。
たぶん男の人とほんとの意味で対等な関係になることが私にはできない。
つきあっていたとき、そのひとのことがかわいくてしかたなかった。
一緒に暮らしたら朝から晩まで世話を焼いて楽しくてしかたないだろうと思った。
でも一生そのままでいることもできないと知っていた。
保てなくなるという予感を感じるとすべてをひっくり返して逃げ出す、
それがもみぢの癖だった。